シベリア鉄道といえば、極東のウラジオストクから首都モスクワまでを結ぶ大陸横断鉄道として有名です。1897年に開通して以来、乗客はもちろん貨物輸送の重要な役割を担ってきました。
車窓から景色の変わりゆくさまを眺めつつ目的地に向かうーーそんな列車の旅に憧れる人も多いと思います。
実は、そのシベリア鉄道に国際線があることをご存知でしょうか?
中国の北京からモンゴルを経由してロシアにつながるルートがあります。他にも哈爾浜(ハルビン)から直接ロシアへ入るルートや、エカチェリンブルクから分岐してカザフスタンに向かうルート、ドイツやポーランドからモスクワへ向かう東ルートなど、多くの国際線が運行しています。
今回は私が実際に旅行した北京→ウランバートル→イルクーツクの国際ルートを紹介します。
国際列車の魅力
越境を楽しめる
トラベラーにとって国境越えは魅力的です。パスポートに入出国のスタンプを増やすことを趣味にしている人も多くいるのではないでしょうか?
国によっては陸路、空路、海路でスタンプのデザイン・種類が異なります。中には列車での国境越えでしか押印してもらえないレアなスタンプもありますので、スタンプコレクターには垂涎ものです。
寝食を車内で楽しめる
長距離・長時間を走るシベリア鉄道だからこそ車内の設備も充実しています。
上記は利用した一等客室(高級軟臥)です。コミュニケーションを楽しめる4人寝台や8人寝台もあります。
食堂が車両として用意されています。国を移るごとに連結される食堂車も変わりますので、毎日違うメニューを楽しむことができます。写真はモンゴル車両です。
刻一刻と変化する景色が楽しめる
目を窓の外にやるたびに、今までと全く違う景色が顔を見せます。一度も同じ風景はありません。山、森、川、砂漠、雪、湖、牧草、民家、動物、鳥。そして人との一期一会の出会いがあります。
ゴツゴツとした中国の山肌を通り抜けると草木は次第に短くなり、辺りは開けた砂漠へと変化していきます。空は蒼く天に突き抜け、何もなかった地表は寒さに呼応して雪化粧を始めます。世界が白く覆われたとき、イルクーツクが見えてきます。
国際列車に乗る際の注意点
楽しいこと尽くめの列車の旅ですが、注意する点がいくつかあります。乗車前に準備していきましょう。
インターネット環境がない
Wifiはもちろんのこと、何もない荒野を走っていくのでほとんどの場面でインターネットが使用できません。本などオフラインで楽しめるものを持っていくと暇つぶしになります。
また、充電のためのコンセントは一等客室には備わっていますが、それ以外の部屋は通路にあるものを共用するかたちになります。盗難に注意を要するのと、時間帯によっては通電していませんのでバッテリー残量は気に掛けておきましょう。
本数が少ない
北京〜モスクワの国際列車は週2回しか運行していません。途中下車→観光→再乗車のような行程を考えた場合、終着点にたどり着くまでに膨大な期間を要します。
万一乗り過ごしてしまった場合、数日足止めを食らうことになります。尤も、時間に誓約のない方にとっては問題にならない部分だと思います。
車内で両替ができない
お金を使う場面は限られるものの、車内でその時々の国の通貨に両替することができません。
食堂や一時停車中の駅の売店などでは現地通貨を求められますが、中国元(CNY)、モンゴルトゥグルグ(MNT)、ロシアルーブル(RUB)をそれぞれ用意しないといけません。
特にモンゴルトゥグルグは目的地がモンゴルでなければ所有するメリットがあまりありませんので、できれば中国元かロシアルーブルだけで切り抜けたいところです。
国境付近や大都市であれば違う国の通貨で支払可能なケースもありましたのでそれに期待しましょう。ただし、お釣りは現地通貨となりますので、なるべく小額紙幣でお釣りが出ないようにします。
国際列車に乗車する
まずは日本から北京へ飛行機で移動します。一泊した後、ターミナル駅である北京駅からイルクーツクに向けていよいよ出発です。
北京駅からの出発
チケットは3月のオフシーズンということもあり、窓口で問題なく当日購入できました。調べた限り、外国人はインターネット上で予約購入ができないため、ハイシーズンに行く場合は代行会社に事前に購入してもらうなど対策をした方が無難です。
乗り込んだ時の様子です。日本でも寝台列車に乗ったことがなかったので、内装や設備を見てテンションが上がります。
ゆっくりと動き出します。雑多な風景ともしばしのお別れです。
早速車内を探索していると、車両の連結部分に喫煙スペースを発見。時勢に鑑みると、いずれ封鎖されるかもしれません。
どの車両にも給湯器が備え付けられています。カップラーメンやコーヒーを作ることができます。振動でお湯が跳ねることもあるので注意しながら注ぎます。
一等客室の利用者には夕食が付きます。乗車時に車掌から日数分の食券が配られ、決まった時間に食堂で利用することができます。・・・味は想像以上に想像以下でした。
国境に到着
1日目の夜に中国とモンゴルの国境付近にある二連(ERLIAN)に到着します。未だ3月ということもあり雪が残っています。
車両の連結変更と越境手続きで数時間停車するということなので、散策に出かけます。
割と大きめの街です。
作業の邪魔にならないように、車両の挿げ替えの様子を見せてもらいます。メカニカルなことは全く分かりませんが、かっこいいです。
程なくして、客室に税関職員がやってきてパスポートやビザを回収していきます。モンゴルへの入国に関して日本人はビザが免除されています。
天井を開けて不正乗客がいない?ことも確認します。むちゃくちゃ身軽です。
特に問題もなかったようで、中国出国、モンゴル入国のスタンプが押されたパスポートが戻ってきました。その後しばらくして、再び列車は動き出します。
モンゴル平原の横断
起床すると、昨日とは様変わりした風景が眼前に広がります。時刻表とオフラインマップから、今はモンゴルのゴビ砂漠を駆け抜けているところだと推測します。
朝食を求めて食堂車に向かうと、内装からメニューまでモンゴルスタイルに一新されていました。マンネリしがちな車内において視覚的にも変化があるのは非常に嬉しいことです。
美味しくも不味くもない朝ご飯を堪能します。
お昼過ぎにモンゴルの首都ウランバートルに到着。空が澄み渡っています。
流石の都会です。
停車時間が1時間もなかったので市内観光とまではいきませんでしたが、別の機会にじっくりと訪れてみたいと感じました。
ウランバートルを通過してからも引き続き平原が続きます。所々に雪が混じりはじめます。
2日目の夜にはモンゴルとロシアの国境近くにあるダルハンに着きます。かなり寒いです。
その後しばらくすると、再び税関職員が列車に乗り込んできてパスポートとビザを回収していきます。ロシアへの入国はビザが必要になりますので出発前に予め取得しておきます。
審査は中国モンゴル間よりも短く一瞬で終わりました。提出物を受け取り、いよいよロシアへ突入です。
風花雪月なロシアの風景
一夜が明け、早朝の窓からはまた新たな世界が顔を覗かせます。
もとは湖でしょうか。見渡す限り白銀です。
夏になると木々は色づき、美しい水面が表れるのでしょう。自然豊かなロシアならではの贅沢な景色です。
民家が徐々に増えていき、旅の終わりも近づいてきました。
明らかな都会が遠方に見えてきます。旅の終着点イルクーツクです。
目的地であるイルクーツク駅に到着しました。
終着駅であるモスクワまでは倍以上の距離がありますが、個人的には2泊3日の列車旅行で十分な満足感がありました。
国際列車のまとめ
国際列車の旅としてシベリア鉄道の車内の様子や車窓の景色をまとめてみましたが、いかがだったでしょうか?
今回乗車してみて一番感じたことのは、旅行客の少なさです。
私と同じ旅行目的の乗客もいるにはいましたが、圧倒的多数を占めるのは仕事・生活のために往来している現地の方々でした。
アジアからヨーロッパまでを結ぶロシアのライフラインとして、現在も重要な役割を担っていることを実感しました。
そして現地民が大半であるからこそ、彼らのライフスタイル・息づかいを垣間見れたところも、貴重な体験として記憶に残っています。
最後に、車窓から見える風景を写真だけでなく動画にしてみました。是非ご視聴下さい。
また、ロシアに関する体験記事は他にも書いていますので、是非ご覧下さい。