前回の記事ではヤクーツクへ旅行するための準備について見てきました。後編では、いよいよヤクーツクについて紹介していきます。
冬のヤクーツクへのアクセス
世間が年越しへ向けた準備を始める12月上旬、私はヤクーツクへ向けて旅立ちました。
マイナス40度の氷の世界。まるで別世界のように感じますが、そのアクセスは驚くほど簡単です。
乗換えはわずか1回
ヤクーツクへは韓国の仁川空港から週に2回、ヤクティア航空(Yakutia Airlines)が直行便を飛ばしています。
到着地となるヤクーツク空港では、冬の期間中、航空機を格納しておくことができない(凍ってしまう)ので、乗客を入れ替えてそのまま仁川空港へ戻ってくるピストン運行を行っています。
仁川とヤクーツク間のフライト時間は約4時間。あっという間に到着します。
私は関西国際空港→仁川空港→ヤクーツク空港のルートで向かいました。関空を夜の20時に出発し、半日も経たない朝の5時にはヤクーツク空港に到着しました。
到着直後のヤクーツク空港の様子。暖房の効いた機内からタラップを降りて輸送バスに乗り込めと指示され、いきなり寒さの洗礼を浴びます。
空港からゲストハウスへ
税関は日本で取得したビザで問題なく通過できました。
入国審査の際に、職員からロシア語を話せるかロシア語で尋ねられましたが、それをロシア語で訊いても意味ないやんと思いつつ、分からないと答えます。
入国後、持ってきた服を重ね着して外へ出ると、凍てつく風が顔に突き刺さります。
ウロウロする余裕もないまま、空港から家に帰るというローカルの車に500ルーブルで乗せてもらいます。いわゆる白タクです。金額は吹っかけられましたが、これを逃すと移動手段がなくなりそうだったのと、車の外で価格交渉するのが辛く、早く乗り込みたい気持ちが勝ってしまったので了承しました。
15分ほどで目的地に到着。白タクを降りてから、予約したホステルを探します。が、すぐに見つかりません。いつもならゆっくり探しますが、すぐに睫毛が凍り、目を開けるのも辛くなってきたので、慌てて辺りを周回します。
位置的に間違いないと思われるアパートの裏手に回ると、ひっそりとぶら下がっている看板を発見。経験上、アパートの1フロアを借りて経営しているホステルは、他のフロアに住民がいることもあって、入り口はただのアパートと区別がつかないケースが多いです。
事前に知らされていたパスコードを入力し、重い鉄の二重扉をくぐると、得も言われぬ暖かさが私を迎え入れてくれます。天国かな?
Bed & Breakfast Bravo! の魅力
実際に利用したオススメの宿を紹介します。前述のとおり少し分かりづらい場所ではあるものの、とても快適なホステルです。B&Bということで簡単な朝食付、オフシーズンの冬は一泊2,000RUB前後になります。ヤクーツクの中心部にあり、スーパーマーケットやカフェ、ショッピングモールも全て徒歩圏内に揃っています。
受付の方はほとんど英語が話せませんが、とてもフレンドリーでホスピタリティに溢れています。メールでのやりとりは丁寧な英語で返ってきましたので、渉外担当の方が別にいるか、私の滞在時にたまたま出会わなかったものと思われます。
室内の写真を撮っていないことが悔やまれます。詳細な雰囲気、情報はホームページでご確認いただければ幸いです。
スーパーで買ってきたハンバーガーを共同のダイニングで食べた時の写真。コーヒーは無料で提供してもらえます。
冬のヤクーツクを歩く
拠点を無事確保したところで、街歩きに出かけます。ここからは街の様子を紹介していきます。
時刻は正午に差し掛かった頃ですが、太陽は低い位置のまま昇る気配がありません。このまま15時くらいに日没となりますので、日照時間は非常に短いです。
滑り台も絶賛稼働中
「この寒さだし、用がないと皆外に出ないのでは?」と思いきや、そんなことはありません。
サラリーマンは通勤しているし、学生は学校に通っているし、社会は当然のように動いています。
街の中心部に佇む滑り台。存在感があります。
面白いことに、地面が凍っているため着地してからも滑り続けます。
人目を気にせず私も試しましたが、子供より重い分よく滑りました。普通の滑り台よりもスリルがあります。
ここで、滑り台に関して注意点が一つあります。レールが金属なのですが、素肌が触れてしまうと瞬時にくっついて離れなくなります。ドアノブなどもそうですが、屋外で金属を触る場合は必ず手袋を装着しましょう。
Google mapも教えてくれない最短ルート
目的地は目の前にあるのに、わざわざ向こうの橋まで回らないと辿り着けないって経験、ありませんか?
ヤクーツクなら川の上をそのまま歩いて渡れます。
しかも、生半可な凍り方じゃないので、足が嵌って川の中に落ちる心配もありません。何なら車も走っています。
日常生活では便利なこの状況ですが、冬は船が川を進めないことから物流がストップする難点も抱えています。また、冬の流通経路が空路か陸路に限定されることから、輸送コストが物価に反映され、ロシアの他地域と比較してもやや高くなっています。
レストランで一息
ヤクーツクには一息つけるカフェやレストランが至るところにあります。
長時間の散歩は難しいので、私は滞在中、散歩→カフェ→散歩→カフェ→……をひたすら渡り歩いていました。
店内はどこも小洒落ていて、ゆったりくつろげる空間になっています。思うに、外の環境が厳しい分、中では少しでもゲストにリラックスしてもらおうとする趣向が発達したのではないでしょうか。
ロシアなどで定番のシャシリクを注文。サイドも含めて味付けは割とシンプルです。
別のお店ですが、毎日のように通っていたカフェのコーヒー。店員にアドバイスを貰いながら、ロシア語で拙い日記を書いていました。
新年を祝うクリスマスツリー
広場には大きなクリスマスツリーとイルミネーションが装飾されています。ちなみにこれは昼の15時前後の景色になります。ヤクーツクではライトアップの映える時間がとても長いです。
街はクリスマスムード一色かと思いきや、意外にも看板やポスターには新年を祝う「C Новым годом ( Happy New Year )」という文字ばかり。
クリスマスよりも新年を重要視するのかな? と思い調べてみると、ロシアのクリスマスはなんと1月7日! 国教であるロシア正教の暦(ユリウス暦)にしたがい、新年よりも後に来るんだとか。12月25日=クリスマスと考えるのは、完全に先入観でしたね。
また、直感どおりロシアでは文化的にクリスマスよりも新年を盛大にお祝いするようです。今回の旅行では惜しくも年越しをロシアで迎えることは叶いませんでしたが、いつかロシアで新年を祝ってみたいものです。
マンモスに会うために我慢もする
ホステルから徒歩20分の距離にマンモス博物館があります。
大学併設の施設で、博物館の看板がないため入り口を発見するのに苦労しました。結局、大学関係者に訊いて勝手口のようなところから入館。
ま、まるで生きているような臨場感です。立派な牙はもろにプラスチックでした。マンモス博物館はTripadvisorなどでは数少ない観光名所として紹介されていますが、展示物はこの1フロアにあるものだけで、正直かなり小規模な博物館でした。尤も、現地学生の社会見学などで利用されているようなので、歴史的価値・意義は大きいのかもしれません。
下のフロアには民族資料館も常設されています。紀元前から近代に至るまでの生活用品や衣服が展示されていて、個人的にはこちらの方が興味深かったです。
The cold never bothered me anyway
『アナと雪の女王2』が封切りされた直後だったので、鑑賞しました。
ロシア語では”Холодное Сердце 2”で、直訳すると「冷たい心」になります。
前作でエルサが「少しも寒くないわ」と歌っていましたが、ヤクーツクの方がよっぽど寒いので、現地の方々にとって大いに共感できるフレーズでしょう。
映画館はこんな感じ。スクリーンは5つくらいで、スナックやドリンク売り場も完備です。
娯楽施設としては映画館に加えてゲームセンターやショッピングモールがあり、厳冬期でも楽しく暮らすには十分なアミューズメントがあると感じました。
この他、画材屋をやたらと目にしました。家にいる時間がどうしても長くなる分、絵画を趣味にしている人が多いのかもしれません。期間工よろしく夏場に一所懸命働いて、冬は趣味に没頭する・・・とても素敵なライフスタイルです。
冬のヤクーツクのトリビア
ヤクーツクにまつわる小ネタをいくつか紹介します。
ドライバーはお金持ち?
冬の間、車のエンジンを切ろうものなら機構が凍結してしまい、春の雪解けまで起動しなくなってしまいます。そのため、停車中でもエンジンはかかりっぱなしです。
当然、ガソリンはその間垂れ流しですので、冬に車に乗ることができる人は裕福であると言えるでしょう。
ウイルスも裸足で逃げ出す寒さ
真偽は定かではありませんが、寒さでウイルスも活動を停止するため、インフルエンザなどウイルス性の病気にかからないそうです。でも、寒すぎて風邪は引きます。
禁煙を考えている方、朗報です
州もしくは市の条例で、施設内の喫煙が禁止されています。
タバコを吸うためには必然的に外に出ることになりますが、これがなかなか億劫です。
いざ外に出て一度にまとめて吸おうとしても、寒さでオイルが気化しづらくなり、2本目を吸う頃にはライターが点かなくなります。電子タバコは試していませんが、多分起動すらしないでしょう。
強制的に禁煙できる環境を求めている方はヤクーツクへの移住がオススメです。
冬のヤクーツクのまとめ
ここまで、ヤクーツクに関する情報を体験談を交えて紹介してきました。
観光資源が豊富というわけでもなく、スキーなどのアクティビティも特に盛んではありませんが、世界一の寒さを体験できる場所という意味で、何者にも代えがたい最高の旅行先です。
私がヤクーツクでやったことといえば散歩・買い物・食事程度で、日本での生活と大差ないじゃないかと思う人もいるかもしれませんが、ヤクーツクではその一つ一つが特別な体験に変わります。
その意味を、次はあなた自身が是非体験してみて下さい。